秋の黄昏の風景 鮭川と最上川の交叉する地点に、戸数が十七戸の集落、金打坊(かねうちぼう)がある。秋ともなれば、あたりは一面に、稲穂を垂らした黄色い稔りの海になる。かつては川辺にタイシ小屋があり、渡し舟を使って集落に渡った。いまは橋が架けられ、外の世界とも車で行き来ができるようになった。その鮭川に架かる橋から眺める、黄昏の風景は息を呑むほどに美しい。川のおもてを茜色に染めて、鮮やかな秋の夕陽が沈んでゆく。そのかたわらに、暮れなずむ闇に包まれてゆく村がある。 橋のない時代は遠ざかる。女たちはみな、舟に揺られて金打坊に嫁いできた。まるで川に浮かぶ中洲か、小島のような村だった。どこの家にも笹舟があった。最上川を小鵜飼舟が行き交った時代も、けっして遠い昔の話ではない。帆掛け舟は昭和二十年代になって、ようやく姿を消した。運のいい子どもは、小鵜飼舟に乗せてもらった。そんな思い出が、昭和生まれの老人たちの口から語られる。 近世には、金打坊は舟運(しゅううん)で栄えた。鮭川の上流から、木流しで送られてくる木材を改める土場(どば)があり、年貢米を検査する蔵宿も何軒かあった。川関所のひとつだったのである。金打坊の家々は、先祖の多くがそうした舟運にかかわって定着したらしい。大きな農家が多く、むしろ裕福な村だった。金打坊の米はうまい、と誰もが自慢する。そして、ここにはやはり、川の暮らしが豊かに残されている。