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ミッチーのほぼ日記

我等の生涯の最良の年(1946) The Best Years of Our Lives

カテゴリ: 映画作品解説
(登録日: 2013/00/00 更新日: 2024/02/22)


☆我等の生涯の最良の年(1946) The Best Years of Our Lives
サミュエル/ゴールドウィン 白黒 172分
監督 ウェリアム・ワイラー 撮影 グレッグ・トーランド
https://ja.wikipedia.org/wiki/...%B9%B4

この記事は、「おらほねっと/ミッチーのほぼ日記」から転載したものです。
http://sns.orahonet.jp/blog/blog.php?key=12780(2013/03/29)
http://sns.orahonet.jp/blog/blog.php?key=12780(2013/03/31)
http://sns.orahonet.jp/blog/blog.php?key=12781(2013/03/29)
 

私の好きなシーン 家庭への帰還


最も好きな映画と聞かれたら間違いなくその筆頭に挙げるのが『我等の生涯の最良の年』(1946年、ウィリアム・ワイラー監督)です。なぜこの映画がそれほどまでにいいと感じるのかは私もよく説明できません。人生の機微をこの映画ほど感じさせてくれる映画はそう滅多にありません。

第二次世界大戦が終わり、戦地から米国のホームタウンに帰還した3人の兵士たちが戦後の生活を始める話です。

The Best Years of Our Lives

まず、このタイトルがお気に入りです。このタイトルは映画のタイトルであるよりも前にいつも自分に問いかけてみたい。

The Best Years of Our Lives?

今、幸せだと思えるときがBest Yearsかもしれません。

この映画で最も好きなシーンの一つが、主人公ウィルが家庭に帰還し、妻と抱擁をするシーン。ここが実にいい。特に好きなのは夫が帰還したことを感じ取る妻のリアクションと、その前に夫が画面奥の空虚な空間に目をやる時間的な間合い。2人が抱擁するまでの距離感と絶妙な間合い。アメリカ映画にもこういう気配を感じさせる人生の機微が表現されていることにも感心をします。

このシーンは演出の面からも秀逸です。空間の奥行きが深いことにご注目ください。前景が玄関ホールで手前に息子と娘が父を出迎えます。2人はその後、前景として画面の両端に存在しますが、ドラマの中心は画面のずっと奥の方で抱擁する夫妻の引き立て役です。ドラマの中心の2人は遠景ながら、前景の息子と娘の存在によってより強調されて見えます。控えめな演出ですが、計画された映像効果であることが明らかです。

これが実にさりげなく描かれています。こういう瞬間にBest Yearsを思わず実感してしまいます。
 

私の好きなシーン 鏡像のシーン


『我等の生涯の最良の年』にはいくつも卓越したシーンがあります。衣装部屋の鏡のシーンもその一つです。

ウィリアム・ワイラー監督の映画では劇中に鏡が時折り登場してきます。その効果は人物の内面の心の動きを可視化することです。その極めつけとも言えるような鏡の驚くべき展開がこのシーン。黒いドレスの女性はペギー(テレサ・ライト)、白いドレスはマリー(ヴァージニア・メイヨ)です。マリーの夫をめぐって2人は三角関係にあります。ペギーはマリーの夫に心惹かれていますが、マリーは夫にあいそをつかしており、マリーがペギーに意地悪く当たるという場面です。

人間関係も三角関係ですが、この衣装部屋には大きな鏡が壁面に3面貼り付けられていたことが後になって明らかにされます。しかも最初の鏡は出入り口のドアの壁面に貼られた鏡であるため、さらにややこしい関係です。

最初示された映像はカメラが左へパンすることによって、それまでの映像が鏡像であったことが明かされます。前景にマリーの背中が映り、表情は鏡に映して間接的に観客に示されます。その隣にいるペギーも鏡像です。ここは演出が凝っていて、さらに左にパンしてペギーの実像とその背後の鏡に映ったペギーの鏡像を重ねて映し出し、ペギーの内面にフォーカスを当てたような作用が生じます。その背後に小間使いの黒人の少女がイスに座っています。これは映像上のおとりのようなものです。この少女が映像に介在し、鏡に映り続けることによって、2人の対立関係がさらに意識されるものとなります。

この後、2人はナイトクラブのホールへと立ち去りますが、左方向の出口へ向かうところをカメラが右にパンして、鏡像(左右あべこべ)のままこの場面はおしまい。2人の女性の関係をここまで空間的に立体的に対峙させ続ける演出はうまく行き過ぎです。やり過ぎているというぐらいにうまくできすぎています。

鏡像をトリックに使った映画史上の最高の場面ではないかと思っているシーンです。
 

『我等の生涯の最良の年』の音楽


『我等の生涯の最良の年』は、おそらく殆どの方がご存じないと思います。ましてや音楽の作曲者は殆どご存じないことでしょう。

▼『我等の生涯の最良の年』のメインタイトル(曲)
http://www.youtube.com/watch?v=NIqBdbL0MT4

非常に地味ながら、何度聞いても飽きが来ない音楽に魅せられ続けています。

★Wikipedia:ヒューゴ・フリードホファー
https://ja.wikipedia.org/wiki/...%83%BC

作曲者ヒューゴ・フリードホファーは、まず寡作であることに驚きます。さらに驚くことは、「マックス・スタイナーとエーリヒ・ウォルフガング・コルンゴルトと仕事をし、スケッチをスコアにおこす彼の熟練の腕に2人とも信頼を置いていた」ということ。ハリウッドの映画音楽の2大巨匠の愛弟子と言っていいでしょう。それにしてはあまりに寡作です。アカデミー賞受賞もこれ一作だけですか。この業績もあまりに寡黙過ぎます。

『我等の生涯の最良の年』は極めて地味な音楽です。さらにスタイナーやコルンゴルトのようなワーグナー的映画音楽ではありません。ライトモチーフがありません。ライトモチーフと呼べるのはメインテーマのみで、他は場面場面の雰囲気醸成の音楽です。言い換えると、ワーグナーワーグナーしていなくてよかった。この地味な曲だから飽きが来ないわけです。

ちなみに上記のYouTubeの音楽は映画のサウンドトラックとは違います。オリジナルスコアによる演奏です。音楽だけ映像を伴わず、またサウンドトラックでなく、このオリジナルスコアによる演奏で全曲を是非とも聴いてみたいものです。
 
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