最も好きな映画と聞かれたら間違いなくその筆頭に挙げるのが『我等の生涯の最良の年』(1946年、ウィリアム・ワイラー監督)です。なぜこの映画がそれほどまでにいいと感じるのかは私もよく説明できません。人生の機微をこの映画ほど感じさせてくれる映画はそう滅多にありません。
第二次世界大戦が終わり、戦地から米国のホームタウンに帰還した3人の兵士たちが戦後の生活を始める話です。
The Best Years of Our Lives
まず、このタイトルがお気に入りです。このタイトルは映画のタイトルであるよりも前にいつも自分に問いかけてみたい。
The Best Years of Our Lives?
今、幸せだと思えるときがBest Yearsかもしれません。
この映画で最も好きなシーンの一つが、主人公ウィルが家庭に帰還し、妻と抱擁をするシーン。ここが実にいい。特に好きなのは夫が帰還したことを感じ取る妻のリアクションと、その前に夫が画面奥の空虚な空間に目をやる時間的な間合い。2人が抱擁するまでの距離感と絶妙な間合い。アメリカ映画にもこういう気配を感じさせる人生の機微が表現されていることにも感心をします。
このシーンは演出の面からも秀逸です。空間の奥行きが深いことにご注目ください。前景が玄関ホールで手前に息子と娘が父を出迎えます。2人はその後、前景として画面の両端に存在しますが、ドラマの中心は画面のずっと奥の方で抱擁する夫妻の引き立て役です。ドラマの中心の2人は遠景ながら、前景の息子と娘の存在によってより強調されて見えます。控えめな演出ですが、計画された映像効果であることが明らかです。
これが実にさりげなく描かれています。こういう瞬間にBest Yearsを思わず実感してしまいます。
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