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報告書目次: 第3章 データベースの試作と評価 (1) 県民参加による地域文化データベースの試行情報革命により、社会・経済の仕組みが大きく変わろうとしているが、進歩著しい情報技術を適用して地域文化に関する各種の情報を収集、蓄積、活用することにより、地域での生活を知的に豊かで高度なものにしてゆくことができる時代になってきた。 山形県が平成11年12月に発表した次期山形県情報化基本計画の策定方針案では、県内に地域情報ハイウェイを構築し、文化情報を含む地域情報データベースを整備していくことが述べられた。心強い限りである。 自らが生まれ育った/住んでいる地域の景観、行事、生活の一コマを意味豊饒なものとして感受できるためには、地域の歴史、自然、文化についての幅広い知識が必要である。今回のプロジェクトでは、その知識を東北芸術工科大学の学生有志が収集し、専門技術者の手を一部借りて、データベース化するという手法でコンテンツ例を制作した。また、この手法を広く県民の方々に使っていただくため、同大学情報デザイン学科助手の前川道博が開発した「PopCorn」というソフトウェアを発展させ、複数のメンバーが分担して情報を収集、蓄積した場合でも、一つのまとまったデータベースを容易に構築できるシステムを開発してコンテンツ制作に利用した。 今回のプロジェクトのポイントは、専門家が知識を収集し編集した完成品としての成果物を提示しているのではなく、非専門家が興味を持った分野について(専門家の手助けを得ながらも)、自ら楽しみとして情報を収集、蓄積し、チームメンバー(や専門家)とインターネット上で意見交換しながら構築したデータベースを発展途上の成果として中間発表している点である。 本項では、今回開発したシステム及びコンテンツ例を広く県民の方々に利用していただき、コンテンツを県民自らが作り出していく活動(まさに、これが新しい文化である)を促進するための具体的課題を検討する。 (2) サーバーサイトの整備と提供今後、山形県の地域文化データベースを発展させていくためには、今回構築し公開しているシステム構成では不十分である。様々なテーマに関するデータベース構築活動に情報蓄積と公開の場を提供するため、大容量で高速なサーバーサイトを構築し、広く県民に提供して行かねばならない。また、円滑なデータベース・サービスを提供するため、サーバーサイトを適切に運用・管理する体制を整備する必要がある。 目標としては、それらの費用は、利用者の負担、制作者のボランティア、支援企業のメセナ活動、集積情報の二次利用収益等で賄い、自律的に発展できる仕組みにしたいところであるが、その段階に至るまでは、行政による支援が必要であると考えられる。 (3) 「生涯学習」活動に着目したコンテンツ制作活動の誘発インターネットやデジタル放送の進展で知識のあり方、学習の方法が根本的に変わろうとしている。これまでの「学習」は講師の口から知識を伝授してもらうことであった。今後は、知識素材のありかは教えてもらうにしても、それを収集・蓄積・編集・加工して新たな知識を生み出す知的作業を自ら行うことが「学習」となる。これを「文化」テーマで行うことが新しい文化活動となる。 これをふまえ、コンテンツ制作活動の誘発方法として、大人向けの「生涯学習」、中高生向けの新科目「情報」、小学生向けの「総合的学習」の一テーマ、一手法として「地域文化データベースのコンテンツ制作」をとりあげることが適切であると考えられる。 特に、「生涯学習」は興味と意欲と知識のある大人が主体的に参加する学習であるので、地域文化データベースのコンテンツ制作にふさわしいと考えられる。その成果は「総合的学習」や「情報」の素材として活用できるだろう。 「生涯学習」のテーマや方法は、行政と講師で決めている例が多いと聞く。将来は変わるだろうが、当面、行政主導で「地域文化データベースのコンテンツ制作」を文化テーマの学習方法として採用することを提言したい。 (4) 特定コンテンツの充実様々なコンテンツ制作活動を誘発していくためには、面白いコンテンツ・テーマの事例呈示が必要である。今回、例として示したコンテンツ・テーマは「紅花」「昔話」「草木塔」「文化行政情報」等であるが、各々の内容を賛同者の参加を得て充実させていくほか、山形県の他の文化資源テーマの中から特定のテーマを選び、コンテンツ制作活動を組織し、地域文化データベースを充実させていくことも効果的である。 特に、景観、建物、行事、風俗などの写真や映像、また、使い手の高齢化で伝承されていない方言、生活習慣、道具の使い方、舞踊などの無形文化、やがて取り壊される古い建物、古い石碑、景観等、消えゆく地域文化資源の記録、保存が急がれる。既に、放送局や新聞社での取り組みもあるので、彼らと協力して、テーマ設定、素材収集・二次利用を進めるプロジェクトが考えられる。 (5) コンテンツ制作活動の支援のための技術者の養成「生涯学習」では一般人を公募するが、すでになんらかの文化活動を営んでいる「〜博物館友の会」「〜保存会」「〜学会」「〜サークル」等が存在するならば、彼らを、コンテンツ制作活動のコアメンバーとして、招聘したい。 コンテンツ制作活動の内容面、すなわち、コンテンツ素材のありか、校訂、位置づけなどでは、やはり、「生涯学習」の講師を勤めていただいている学者等専門家の支援を仰ぎたい。ここまでは、これまでの「生涯学習」の枠で支援できるであろう。 一方、コンテンツ制作活動の技術面、すなわち、パソコンやマルチメディア機器の取り扱い、データベースの構築や管理運営等については、機器、ソフト及び技術者の支援が新たに必要となる。パソコン、デジカメ、ビデオ、スキャナ等の機器は高性能低価格化が進み、保有率も高まってきているので行政が全てを用意する必要性は少なくなっているだろう。ソフトについては、今回プロジェクトで開発したものと、フリーのソフトを組み合わせれば、かなりのことができる。 問題は技術者であるが、その人材としては、社会人のボランティアのほか、東北芸術工科大学や山形大学の学生、及び、高校生も候補にあげられよう。彼らに対して、今回開発したソフトの講習会を実施できれば、より広範囲なコンテンツ制作活動の支援が可能となる。 (6) データ基盤の整備促進地域文化コンテンツの集積を進めるに当たり、データ基盤として@地図データベース、Aデータ記述標準の整備、提供が不可欠である。 ほとんど全ての地域文化コンテンツには、位置情報が付属する。この位置情報のデータ化の方法、及び、その基準となる地図を統一しておかないと、将来、様々な地域情報を地図上に表示した場合、精度のずれ、位置関係の不整合が発生する。これは、今後、整備が進められる予定の行政情報データベースにも当てはまる。そこで、将来に禍根を残さぬよう、行政が地図データベースを早急に構築し、広く一般の用に供するよう提言しておきたい。 また、地域情報データベースが整備されるに従い、複数のデータベースから情報を検索して組み合わせて活用することが行われるようになる。このとき、データの記述の方法が統一的でないと、組み合わせ活用がうまく機能しなくなる。そこで、行政が地域データの記述方法の標準案を作成し、広く一般の用に供するよう提言しておきたい。 これらは、地域情報のデータ基盤であるところから、県が(国際標準案や国家標準案の動向を参考にしながら)、県内で一種類のものとして、早めに、適切に定めていく必要があるものである。 (7) 情報通信基盤の整備促進地域文化データベースをはじめとするインターネットベースの地域情報データベースが活用され、更に、整備が進んでいくための最大の必要条件は、広帯域(=高速、大容量)な情報通信が合理的なコスト(世界標準並の低コスト)で使えることである。 山形県は、人口規模や経済活動規模からみて、民間投資による情報通信基盤の早期整備が期待できないことから、次世代産業基盤であり次世代生活基盤である情報通信基盤の整備を行政投資をきっかけとして、強力に推進していくことが期待される。 (執筆者: 白神浩志)
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