能、狂言、歌舞伎などの古典芸能は、再現されるべき台本を持っています。ある時代、ある作者によって創作されたこれらの作品は、まさに文字によって書かれたものであるため、数百年を経た今日でも創作当時の言葉で再現しなければなりません。これが古典芸能と言われる所以(ゆえん)です。こうした古典芸能と民話は何が違うのでしょうか。第一に台本というものがありません。まさにそれは伝承という無形的な状態の中に実体があるものです。たとえ同じ話でも、時代や語り手個人ごとに同じ話は表現が異なるのです。もし、それを文字に表すと、文字化した人の恣意(しい)性が加わった作品になってしまいます。しかし、民話は作品ではありません。表現は変容し続けても伝承されていくものが民話の本質的なものなのです。
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