[ 登録日(2013/12)へ戻る | ←← | →→ ] [ カテゴリ(映画作品解説) | 記録日(/) | 登録日(2013/12) ]
ミッチーのほぼ日記

ローンデール駅の電信技師(1911)  Lonedale Operator

カテゴリ: 映画作品解説
(登録日: 2013/12/29 更新日: 2024/02/22)


バイオグラフ社 白黒 16分ぐらい
監督 D.W.グリフィス 撮影 ビリー・ビッツァー
主演 メアリー・ピックフォード

この解説は、「おらほねっと/ミッチーのほぼ日記」の以下の記事を転載したものです。
http://sns.orahonet.jp/blog/blog.php?key=13782
 

プレヒストリー


映画の誕生が1895年のシネマトグラフ・リュミエールとすると、1911年はそれから16年後です。映画=実写であった映画草創期を経て、映像によるストーリーテリングの映画が始まったのが1902年頃とされています(『アメリカ消防士の生活』『月世界旅行』など)。

D.W.グリフィス(1875-1948)が第1作『ドリーの冒険』を作ったのが1908年。

☆ドリーの冒険 The Adventures of Dollie 1908

単調ながら映像によるストーリーが綴られた映画です。翌年には『寂しい別荘』で、強盗に襲われる主人公たちが危機一髪のところで救出されるという「ハラハラどきどき」の物語展開が描かれています。この1年間の進化は実に凄まじい。

☆寂しい別荘 Lonely Villa 1909
http://www.youtube.com/watch?v=75rBS0tu9kc

『ローンデール駅の電信技師』(1911年)はそれからさらに2年経って作られた映画。「ハラハラどきどき」の描き方が格段に進化したことが裏づけられる映画です。

☆ローンデール駅の電信技師 Lonedale Operator 1911
 

作品分析


この映画は何度見ても面白い。映画の冒頭でローンデール駅の電信技師の娘と恋仲の青年が示されます。こののどかな感じ、いかにも波乱が起きる前の穏やかな始まりであることがよくわかります。駅室に某会社の現金が運び込まれ、それを狙う強盗に娘が襲われ、青年技師が汽車を疾駆させて危機一髪のところで娘を救出するという物語です。文字通り「序破急」の展開です。

私が関心を持つのはこの映画の分節的な時空間の構造です。ショットの数は字幕もショットに数えると全部で109ショットあります。強盗が姿を現すのは第27ショット。実はここが映画のちょうど真ん中です(全長16分49秒のうちの8分24秒目)。つまり後半には82ショットあり、前半より後半がショット数は3倍も多い。1ショットの長さは前半の長さの3分の1しかありません。

時空間の分節で一番特徴的なのは連続した時空間の分節化です。一例を挙げると、ローンデール駅は「線路とホーム」「駅舎の出入口」「待合室」「事務室」という4つの部分空間で成り立っています。ただの1度もその全体が示されることはありません。駅の空間が最初に示されるのは娘と青年が駅に来て娘が駅の事務室へ入るシーンです。このとき、
@線路とホーム 娘と青年が来て別れる。
A駅舎の出入口 娘が室内に入る。
B待合室 娘が室内に入り、事務室へ入る。
C事務室 娘が事務室に入る。事務室にいる電信技師の父親は具合が悪い。
まるで順列のパズルのように@→A→B→Cと娘の動きを介してそれぞれの空間が時間的に連続します。
強盗が現れると、この順列は素早く連結します。
不思議なことにそのプロセスが省略されることは一度もありません。

この順列の2回目は記者が到着して娘が事務室からホームへ出て行く場面。これは逆順でC→B→A→@となります。この時に強盗の姿も提示されます。順列3回目は汽車から下ろされた現金の入ったカバンを事務室へ運ぶ場面。@→A→B→Cとなります。

順列4回目は強盗の気配を感じた娘が出入口の鍵をかけに事務室を出て戻る場面。逆順・正順でC→B→A→B→C。強盗に先んじて鍵を閉める切迫した場面となります。この後、強盗が駅舎に侵入し(5回目:A→B)状況は切迫します。

最後は最後の救出の場面(6回目@→A→B→C)。汽車から飛び降りた青年が救出に駆けつける場面。映画のクライマックスです。映像の展開もタタタタッと速い。

このクライマックスでは、
A:事務室で必死に耐える娘
B:待合室から扉を突き破ろうとする強盗
C:救出に駆けつける汽車(運転する青年)
この3者が素早く並列(パラレル)に切り替わり続けます。こういう手法をクロスカッティングと呼びます。これが実にうまい。

こうした映像の構成、手法を私は「グリフィスコード」と呼ぶことにしたい。では、どのようなコードか。整理すると次のとおりです。

<グリフィスコードの特徴>
○カメラの前の空間はまるで劇場のステージのようになっている。人はフレームインし、続いてフレームアウトする。
(注)
 フレームアウト:人物が動いてドアの陰などに隠れること、または画面の外側に出ていくこと。
 フレームイン:フレームアウトの逆。
○場面全体を提示することはしない。空間は@ABCのように分割されたままで、かつ連続し合う。
○空間は人物の動き(空間の出入り)を介して順列映像のように連続する。
○クロスカッティング(最後の瞬間の救出)が効果的に導入される。

さらに次の点は注目すべき特徴です。
○ショット転換=空間の転換で時間が省略されることがない。
○ショット転換は必ずアクションカット、またはフレームアウト・フレームインする(オフスクリーンで人の動きが連続する)。
(注)
 アクションカット:異なるショットで人物の動きが連続しているように見せること。
○@→A→B→Cのように必ず連続する。

この映画には緩急のリズムがあります。このリズムは@→A→B→Cの分節によってコントロールされています。

グリフィスの映画は、ストーリーテリングの面白さに特色が認められるものですが、どちらかというと、それはストーリーというよりは、「動き」や映像のカッティングという映画の、おそらくは最もプリミティブな要素で見せるところに特色が見出せるものです。映画の原点は動き。グリフィス映画のストーリーは、「物語」というものよりも、映像の連鎖・人物の動きや表情などの展開により綴られる視覚的「物語」です。動き、追っかけ、ドタバタ。まさにこれこそが映画の面白さの原点です。映画初期、警官が誰かを追っかけるドタバタ劇を展開するキーストン映画のような映画こそ映画の原点。グリフィスはそれをもっと洗練させています。映像言語のようなものに高めています。これがグリフィスコードです。
 
[ 登録日(2013/12)へ戻る | ←← | →→ ] [ カテゴリ(映画作品解説) | 記録日(/) | 登録日(2013/12) ]
[ ホーム| ]
[ LinkData『ミッチーのほぼ日記』データ一覧マップを見るRDF(Turtle)RSS1.0形式テーブルデータ(TEXT) ]
前川道博ホームへジャンプ