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地域学習アーカイブ

Excellentな上塩尻を探る

前川道博(長野大学企業情報学部教授)


この原稿は上塩尻今昔の会の会報「上塩尻の今昔」(2018年1月)に寄稿したものです。


上塩尻が日本一の蚕種製造地であったと言っても、歴史的根拠を示しても誰もピンとこない。大言壮語にしか受け取られない歯がゆさがある。

上塩尻はExcellentである。その根拠は何点か挙げられる。一つ目は蚕種製造の中心地として日本の蚕糸業の発展を支えた産業面での貢献の大きさである。二つ目は塚田与右衛門、清水金左衛門、藤本善右衛門に代表される蚕種製造家の存在、また彼らが著した養蚕技術書の存在である。そこに上塩尻の図抜けた知識・技術の粋がある。三つ目は近世・近代の質・量ともに優れた文書群の存在である。長谷部弘氏は「上塩尻には公私にわたる歴史資料が歴史学研究史上まれにみるほど大量かつ集中的に残され」ていると文書群の卓越ぶりを指摘している。四つ目は蚕種製造民家群としての伝統的建造物群の存在である。それらが今もなお数多く残っている。

上塩尻蚕種製造民家群については、過去に何度か調査が行われた経緯がある。1990年頃の工学院大学山崎弘研究室による調査、上田市による「塩尻地区近代化遺産調査事業」(2001年度)などである。残念なことにそれらの調査は事後の事業なり地域づくりに発展することなく立ち消えした。

上塩尻が学術的な歴史研究の対象となっていることも特筆すべき傾向である。代表的な研究には、杉仁氏による近世・近代の在村文化研究(『近世の地域と在村文化』2001年、など)、長谷部弘氏(東北大学教授)による歴史研究(『近世日本の地域社会と共同性』2009年、など)がある。
 国立歴史民俗博物館第三展示室の「近世」には上塩尻の展示がされている。蚕種製造家の業績・資料を紹介しつつ、わずか80戸の小村から全国に蚕種の販売網を構築したことや養蚕技術書を多く出版したことの卓越ぶりが紹介されている。

こうした地域の歴史遺産を未来に伝えていくためには、次世代を担う若い人々からそれらがどう見えるか、彼らがどのような価値を見出せるかを探求していく必要がある。

そうした観点から、上塩尻今昔の会のご協力を得て、長野大学で私が担当する1年生ゼミで地域発見プログラム「Excellent上塩尻」を始めた。

10月12日、学生22名と上塩尻を訪れた。山嵜忠男氏から上塩尻の歴史的背景、上塩尻自治会長清水洽氏から地元の課題についてお話を聴いた後、上塩尻をまちあるきし、藤本の蚕業遺産群(藤本本家〔藤本善右衛門旧邸〕跡、藤本の蚕室、佐藤尾之七旧邸〔現佐藤修一氏宅〕、藤本蚕業歴史館)を見学した。

11月16日には上塩尻文庫蔵に保管されている地図・文書の一部を学生たちがデジタル画像として記録した。タイムカプセルを開くように100年以上も前の上塩尻の様子が眼前に広がって見えてきた。

これらの成果はデジタルアーカイブとして公開をする予定である。また、今後に向けては、地元への成果還元ができる地域課題解決プログラムとして持続的な発展がなされていくよう一歩進んだ取り組みにしていく予定である。
 
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