NHKのBSデジタルで「ニューヨークまるごと72時間」という番組を放送中です。土曜日も用事があったし、テレビは殆ど見ていなかったのですが、今日は久しぶりの休日(おおっ!)でテレビ放送とHD録画を少し見ました。
余談ですが、デジタル放送を見ている人は世の中全体ではかなり少ないようです。テレビのデジタル放送を見ている人は?と授業で聞くと若干名しか手を挙げない。単にさぼって手を挙げないのかというとそうでもないらしい。知り合いの何人もの社会人が依然としてアナログしか見ていないことも知り、ちょっと驚いています。2011年にアナログ放送が収束するということらしいのですが、この状況だと、全く見れないことに気づいてからどっと買い替え特需が訪れるのではないかとの予感がします。
さて、録画と放送で見たのはメトロポリタン歌劇場(通称MET)のオペラ3本。「魔笛」「エフゲニ・オネーギン」「清教徒」。見ていてかなりグラグラ来ました。METは既に世界的なブランドなわけですが、昨年末、支配人が変わったら以前にも増してかつてないほどのすごい世界戦略を仕掛けて来たことを知り、驚きました。
オペラの上演の水準が抜群に高いことにかなり衝撃を受けました。オペラの老舗ウィーン国立歌劇場で小澤さんが過労で静養している間、本場ヨーロッパの老舗歌劇場の主導権を奪ってしまった感じです。
度肝を抜かれたのは「METライブビューイング」。オペラを日米欧に配信するという世界初の試み。 http://www.shochiku.co.jp/met/puritani/index.html 歌舞伎座でMETのオペラを高精細映像で鑑賞できるんですね。これを見に行かなかったのは実にもったいなかった!(余談ながら番組中、"high definition transmission"…と語っているのに、それを「ハイビジョン」と訳したのはいくらNHKにひいきとは言え誤訳でしょう!)
もちろんこれだけではない。昨年12/30に子ども向け演出で上演した「魔笛」の上演の質の高さと大胆さに圧倒されました。こりゃすごい! 「ライオンキング」の演出で有名なジュリー・テイモアの演出。歌舞伎的要素もあり、京劇的要素もあり、それ以上にミュージカル的要素があますところなく盛り込まれた、見ていてこれ以上に楽しい上演はないとぐらいにワクワクさせる上演。「魔笛」の子ども向けオペラの真髄を初めて見せつけてくれた上演、といっても過言ではないぐらいです。
ヨーロッパではこんな上演できないだろうと言わんばかりのメッセージ性を感じました。
「エフゲニ・オネーギン」だけは期待はずれ。チャ・Cコフスキーの一番代表的なオペラです。それからプーシキンの原作。タチアナはロシア文学に現れる最もロシア的なヒロイン像の一つ。やはり期待するイメージというものはあります。枯葉を舞台一面に撒き散らしたシンプルな舞台演出。悪くはないのかもしれませんが、アメリカ娘のようなタチアナに黒人女性の侍女が付くと、ロシアというより米国南部の物語を彷彿とさせてしまって、どうも興ざめするのを禁じえません。いくら何でも…です。趣味的にこれはいただけなかった。
3本目の「清教徒」。これも度肝を抜かれました。まるでレンブラントの「夜警」を見るかのようなリアリティのある舞台と衣装。これだけでもかなりグッと迫ってきます。さらに印象的だったのが最近、人気上昇中のアンナ・ネトレプコの存在感。こういうプリマドンナの出現は歴史的快挙かもしれないと思いました。ネトレプコが舞台に出てくるだけで拍手が沸く(見ていてすごいなあ、と感じた瞬間)。有名な狂乱の場の熱唱では拍手が鳴り止まず。まさしくプリマドンナですよね。久しくプリマが不在だったのがオペラをつまらなくしていたのかもしれません。
オペラの発信はMETからという強烈なメッセージです。メディアを制すれば世界を制する。これだけ質の高い上演を見せつけられればオペラの世界の中心はニューヨークに移ったと錯覚してもおかしくありません。ヨーロッパのオペラの時代は終わった、と挑戦状を突きつけたのかもしれません。
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