倉澤運平の蚕室は1920年に建てられた地下室付きの2階建て木造建築です。2階天井の梁に筆書きされた「大正九年五月建築 倉澤運平直言蠶史」がその証拠です。
1階には温風を配送する送風筒が巡らされ、壁際には地階のボイラーから温風を上に上げる煙突状の筒があります。部屋と接する部分には「温度調節口」と書かれた木口があります。
1階から窓外を眺めると地面は一段と低くなっています。眼下に見える小屋は別所温泉の源泉です。
驚くべきは蚕室の地階(奈落)にある温風設備。オンドルと言っていいのでしょうか。炉には木製の扉があり、「第壹湿気調節口」「第一空気入口」と記されています。地階の道具類もよく調査すれば、蚕種製造の道具体系がわかるのではないでしょうか。
別な入口から地下の貯桑室に入ることができます。石室となっており、室温はひんやりとしています。何らかの形で冷蔵されていることがわかります。貯桑室の天井には焼いた木が配されています。炭を配することで湿気の吸収に役立てられているのでしょうか。その意味はよくわかりません。
室内の片隅にある障子戸には古い文書が障子紙の代わりに貼られています。この文書はどうも江戸時代のものらしい。倉澤家が庄屋をしていた時代のものなのでしょう。
現在は一般に公開する扱いにはなっていませんが、将来に向けては蚕都上田、とりわけ蚕種製造の中心地の一つであった別所温泉の産業遺産として保全・公開されることが待たれます。
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