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ピエール・ブーレーズ氏追悼

カテゴリ: 雑記 地域: どこか
(登録日: 2016/01/07 更新日: 2024/09/30)


★仏作曲家のピエール・ブーレーズ氏死去=90歳、現代音楽の巨匠
http://news.cube-soft.jp/archive/76053.html

作曲家ピエール・ブーレーズ氏の訃報に接しました。謹んで哀悼の意を表します。

ブーレーズは間違いなく私に大きな影響を間接的に与えた人物の一人です。ブーレーズを最初に知ったのは、1979年のバイロイト音楽祭における『ニーベルングの指環』の指揮からです。当時、年末のNHK FMのライブ録音で聞いたのが最初。その後で現代の偉大な作曲家であることを知り、私もブーレーズの作品、『ル・マルトー・サン・メートル』などの作品を数多く聴くことになりました。また、著書『ブーレーズ音楽論』は大学院に入学した1982年に読み、私の映画研究の分析のアプローチはブーレーズの音楽論に影響を受けています。映画研究家ノエル・バーチが映画の構造の読解をするのに、ブーレーズのミュジーク・セリエール(セリー音楽)の概念を応用していました。この概念の援用は、映画の構造を解き明かすのに都合のよい面があり、映画の構造分析ではかなり役立てました。

ただ私個人がブーレーズとより豊かに接することになったのはブーレーズ指揮による演奏の数々です。特に20世紀の音楽については実に豊かな果実がありました。今でもよく思い出すのは、ドメーヌ・ミュジカル・アンサンブルによるシェーンベルクの『月に憑かれたピエロ』です。ドメーヌ・ミュジカル・アンサンブルの一連のレコーディングは今振り返ってみても20世紀の最も偉大な録音遺産群ではないかと思うぐらいです。

たった一つの演奏を聴いて、音楽の世界観が全く変わるということはあり得ます。ブーレーズ指揮によるニューヨーク・フィルの『ニュルンベルクのマイスタージンガー前奏曲』をたまたまFMで聴いたときにはかつて経験したことのないような戦慄すら覚えました。劇的な意味を持つオペラの前奏曲ですから、普通は標題的解釈で演奏されます。ところが、ブーレーズによる前奏曲は、個々のパートがはっきりくっきりと浮かび上がって聞こえる対位法的な絶対音楽と化していました。極めて構造的で、まるでスコアを音響的に記号化したかのような、明晰な演奏でした。

というわけで、ブーレーズの『マイスタージンガー前奏曲』は大好きな演奏の一つです。同じニューヨーク・フィルによる『ジークフリート牧歌』も素晴らしい。異なる旋律が対位法的に絡み合い、その対位法的な響き、音相互の自律感の快いこと。牧歌的気分で解釈されることの多いこの曲がやはり絶対音楽と化していました。

ブーレーズの残したレコーディングの中では、バイロイト音楽祭『ニーベルングの指環』のライブ録音、『ウェーベルン全集』は特に記念碑的労作です。この2つはいつ聴いてもいい。

生身のブーレーズを直接目にしたこともあります。1995年、東京で「ブーレーズ・フェスティバル」なる催しがあり、その際にシカゴ交響楽団などを指揮したブーレーズ指揮の生演奏に接しました。レコーディングではあれほど厳格な人が、生演奏ではおそろしいほどにオーケストラを抑制しない。録音と生のあまりの落差に「あれあれあれ」と感じたぐらいです。当時、ブーレーズが率いていたのはアンサンブル・アンテルコンタンポラン。ブーレーズ指揮による紀尾井町ホールでの生演奏を聴きました。これも印象深いものでした。人生の中でブーレーズの生の演奏を同時代体験できたことは、生涯の宝ものです。

20世紀を最もよく代表する作曲家の一人、そして指揮者の一人です。本当に惜しい偉大な方を亡くしました。

ブーレーズについて私が書いた記事のいくつか

★バイロイト音楽祭1980『神々の黄昏』を見る 2013年06月01日
http://sns.orahonet.jp/blog/blog.php?key=13062

★オペラの楽しみ『トリスタンとイゾルデ』 2012年12月27日
http://sns.orahonet.jp/blog/blog.php?key=12508

<おすすめレビュー>
★シェーンベルク:グレの歌
http://www.mmdb.net/yamagata-net/usr/mae/oto/page/A0019.html
★シェーンベルク:浄められた夜(六重奏版)他
http://www.mmdb.net/yamagata-net/usr/mae/oto/page/A0022.html
★ワーグナー:管弦楽曲集
http://www.mmdb.net/yamagata-net/usr/mae/oto/page/A0023.html
★シェーンベルク :月に憑かれたピエロ作品21
http://www.mmdb.net/yamagata-net/usr/mae/oto/page/A0034.html
★ワーグナー:舞台神聖祭典劇「パルジファル」(全曲)
http://www.mmdb.net/yamagata-net/usr/mae/oto/page/A0040.html
★シェーンベルク:モーゼとアロン 全曲
http://www.mmdb.net/yamagata-net/usr/mae/oto/page/A0044.html
★Boulez Conducts Webern
http://www.mmdb.net/yamagata-net/usr/mae/oto/page/A0066.html
 

おらほねっと/ミッチーのブログから転載
ピエール・ブーレーズ氏追悼 2016年01月07日(木)
https://sns.orahonet.jp/blog/blog.php?key=15504
 
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