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栄冠は君に輝く〜古関裕而 作品集

カテゴリ: おすすめレビュー 地域: どこか
(登録日: 2007/02/10 更新日: 2024/09/30)


2004
カメラータ東京
藍川由美, ピス(マルガリータ=ヴァイチュレーナス), ドレシャル(フリッツ), 古関裕而, マイスターブラス・カルテット

この「おすすめレビュー」は、mixiの「おすすめレビュー」(CDクラシック)に投稿したものです。
 

おすすめレビュー


このアルバムは面白かった! 歌謡曲や日本の歌がウィーンで外国人の演奏者により伴奏されるという状況が、民族音楽としての古関裕而の音楽を改めて認識させてくれる契機となります。この感覚も不思議なものです。かつて体験したことがありません。歌謡曲が日本という土地と膠着的であったこれまでの時代と一線を画すものであるというのは決して大げさな表現でもありません。また、オリジナルの曲を歌った歌手たち(藤山一郎、伊藤久男、岡本敦郎、…)の歴史的・同時代的な膠着性から離れ、藍川由美という歌手によって音楽そのもの、音楽作品としてのより普遍的な価値が引き出されてきました。21世紀に入り、私たちの日本の音楽の価値が問い直される、新しい時代に入ったという認識を新たにさせてくれるアルバムです。とりわけ「古関裕而」という作曲家の存在が問い直された刺激的なアルバムです。

古関裕而は、戦時歌謡からスポーツ番組のテーマ曲まで非常に幅広いレパートリーによっても知られています。このアルバムによって、古関裕而のさらに奥深い世界に触れました。一つは歌曲の作品。『垣の壊れ』『旅役者』『山桜』『木賊刈り』『海を呼ぶ』が歌曲。この作曲家が本来目指そうとした方向であることを窺わせるものです。どれも初めて聞く曲ばかり。非常に興味深い。また優れています。歴史に沈められた不遇の曲と言い換えた方がよいかもしれません。

阪神タイガースと言えば『六甲颪』が有名です。この曲までが古関裕而の作曲とはつゆ知らず。『紺碧の空』まで古関裕而作曲とは? 恐れ入りました。夏の甲子園と言えば『栄冠は君に輝く』。ついでに挙げると、東京オリンピックの入場行進に使われた『オリンピック・マーチ』、またNHKのスポーツ番組のテーマ曲が古関裕而作曲であることは知っていました。『紺碧の空』『六甲颪』は、誰が作曲したかを知らなくても、誰もが知っている匿名性の高い有名曲です。面白いのは、阪神タイガース(旧大阪タイガ−ス)に対する巨人軍、早稲田大学に対する慶應義塾大学の応援歌まで同じ作曲家が作曲しているという事実。スポーツ音楽の王様、と言っても過言ではありません。

軽快で爽やかなスポーツ音楽は、その目的が転じると戦意高揚につながる。この裏表の際どさもまた古関裕而の特性です。両者の音楽にどのような差があるのかと言えば、ありません。このアルバムに収録はされていませんが、戦時中に大ヒットした『露営の歌』(1937)、『暁に祈る』(1940)、『若鷲の歌』(1943)もまたまぎれもなく同じ作曲家の曲。藍川由美は、これらを先入観にとらわれることなく民族音楽として聞き直してみることを聴衆に問い直しています。『若鷲の歌』は、映画『決戦の大空へ』の主題歌でしたが、そのタイトル歌が『決戦の大空へ』。この軽快な曲は全くヒットなどしなかった。そして悲壮感溢れる『若鷲の歌』が大ヒットした。藍川由美は著書『これでいいのか日本の歌』で、古関が民衆の心を表現したことを強調しています。『若鷲の歌』などは、いわゆる軍歌ではなく、戦時歌謡である。それは、大衆の心を表現したものである。それに比べると『決戦の大空へ』はあまり心に響きません。ただ音楽のみを聞けば、不思議なことに『六甲颪』や『我ぞ覇者』などと大差ありません。国から注文を受けた曲は、ほどほどにやり過ごす術を心得ていたものと思われます。

歌謡曲の作曲家で国民栄誉賞を受けたのは古賀政男、服部良一、吉田正の3人。古関裕而がここに上がってもおかしくはないのですが、そうならなかったのは戦時歌謡のあまりの多さの故でしょうか。また、歌曲の作曲家としては全く認知すらされず無視されてきました。実質の価値よりも学閥などの権威によって価値づけられてきた日本の芸術の価値づけが問い直されています。その点では、独学で音楽を学んだ武満徹の音楽も同様の境遇に置かれていた時期がありました。温故知新。21世紀の新しい時代へ向けて、新しい価値の創造、本物の価値の評価について、一石を投じてくれたこのアルバムに感謝します。
 
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