そうですか。山形県生涯学習文化財団の「文翔館芸術劇場事業」ですか。山形市には、山形駅西口に音楽専用ホール「テルサ」ができましたが、ここ文翔館議場ホールでのコンサートは待ち遠しかったものです。何がよいかというと、このレトロな議場の高貴な雰囲気。久しぶりに議場ホールに入れて満足でした。
ホール内は撮影禁止なので画像はありません。議場が後年コンサートホールになるとは誰も思いもしなかったことでしょう。何せ議場なものですから、普通のコンサートホールと違う点があります。まず蝉の声が聞こえる。空調の音も割と聞こえる。さすがに議場の転用だけあって味があります。普通、蝉の声までブレンドされて生演奏が聴けるものではありません。それからどこかで物が落ちる音が聞こえる。それも割とよく響く。演奏の響きも割と拡散しているのかな、という印象を受けます。こういうのはマイナス面でなく、議場ホールならでは。花笠祭りの期間を避けなければならない必然性もその辺にあると見ました。
●バッハ/無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番 堀米さんは、山形ではよく知られているのだと思います。河北町の名家・堀米家と言えば誰でも知っていることでしょう。その家系の方です。堀米さんのバイオリンはヨゼフ・グァルネリ・デル・ジェス(1741年製)とのこと。260年も前のものですか。まずそのことに感動。かなりくせのある音という印象です。これを弾きこなしているわけですね。なかなかよかった。 割とリラックスした感じでステージに現れ、さっと弾き始めました。ちょっと面白かったのは演奏が終わって袖に下がる時。袖と言っても、何せ議場ですからステージから袖までの距離が長いのです。ホール中央にステージ、袖が議場の議長席のある高見の場所の扉。遠い、遠い。しかも議長席の壇上に上がらないと下がれないわけです。ほどほどに拍手をやめてあげないと、カーテンコールで戻らないといけなくなる。ちょっと微笑ましい場面がありました。 無伴奏チェロソナタはよく聴くのですが、ヴァイオリンソナタもそう言えばあるんでしたね。チェロの渋さに比べると、ヴァイオリンは聴きやすい。ハ長調のせいもあるかもしれません。
●バッハ/半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 この曲をピアノ演奏で初めて聴きました。平均律クラヴィーア曲集などはよくピアノでも演奏されるので(ピアノの方が多いかもしれない)、ピアノで演奏されても不思議ではないわけですが、ピアノ向きと思われていないからでしょうか。得難い体験でした。
●ベートーヴェン/ヴァイオリンソナタ第9番イ長調「クロイツェル」 そうなんですね。この有名な曲。聴くのは20年ぶりぐらい? 本当に久しく聴かなかった曲ですが、久しぶりに聞いてもついこの間聴いた馴染みの曲のように感じました。アンコールの「春」ももちろん20年ぶりぐらい。ベートーヴェンのヴァイオリンソナタと言えば、「春」「クロイツェル」。この2曲以外は聴いた記憶がありません。意外にベートーヴェンに親しんでいないと改めて気づきました。
●山形県歌「最上川」 この日の一つの衝撃はこの曲。クラシックのコンサートで演奏されて違和感がない。また、なかなかよいのです。「どうぞ歌って下さい」と誘われて、聴衆の皆が歌い出しました。私も今は山形県民ですが、山形に生まれ育っていないので歌詞を知らない。歌えない。さすがに生まれ育った地域文化の違いを感じないわけにはいかなかった。この曲に触れて、私の記憶にある「茨城県民の歌」が少し恥ずかしくなりました(この歌は今でも歌えますが「最上川」の高貴さに負けます)。
アンコール2曲が終わって20:00ちょっと過ぎ。演奏者のお二人が割とリラックスして楽しんで弾いているという印象でした。また、休憩を挟んで1時間半で終わる短さもとてもよい。割とこってりしたコンサートが多かったりします。こういうさっぱり系のよさを感じ、心地よいコンサートでした。
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