映画:イワン雷帝
カテゴリ: おすすめレビュー(映画など) 地域: どこか
(登録日: 2005/11/18 更新日: 2024/09/30)
1944-1945 セルゲイ・エイゼンシュテイン監督 ニコライ・チェルカーソフ, ニコライ・チェルカーソフ
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おすすめレビュー
とてもシニカルな映画だと思いますね。スターリン独裁体制の真っ只中で作られたという時代状況を意識してみない限り何もわからんとです。ちょっと足を踏み外したら時の権力から死に追いやられかねないぐらいの危うさが感じられます。
エイゼンシュテインの表現主義的な傾向(極端に構図に凝るとか、ライティングに凝るとか、形式的なモンタージュに凝るとかetc)は、「十月」や「全線」などにも濃厚に現れていました。「イワン雷帝」は、その極み。観ていて非常に面白いのはドラマの必然として構図が造形的になるのでは必ずしもなくて、「得たい構図」を作るために場面が存在しているかのごとき主客転倒が起きていること。前景にイワンのあごひげのアップ、後景に民衆の行列、という構図などその典型です。悩み多いイワンが背景の壁に投影するシルエットなどは、それを見せたいがために意図的に作られた構図で、ドラマの必然でも何でもない。ただ造形的には深遠で、ドラマを超越した美しさが横溢しています。
「イワン雷帝」を見ると、エイゼンシュテインという人は、形式、構図、といったものに極まるような形式主義を持っていたのかなぁ…と。これは悪い意味ではなく、文は人なり、というものです。
余談ながら、プロコフィエフの音楽がちょっといい。「アレクサンドル・ネフスキー」では、まるで駆け足行進曲みたいな変てこりんな音楽がかかって唖然としましたが、イワンの音楽はロシア的で真っ当です。
箸にも棒にもかからないような駄作しか作れなかった芸術不毛のスターリン時代にあって、これだけの作品を世に出してしまったこと自体が奇跡です。そう「棚からボタモチ」です。
満足度★★★★★
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