ついに待ちに待った「グレの歌」。何と言ってもサイトウ・キネン・フェスティバルの最大の出し物はオペラ・プログラムです。これを見るのが毎年の一番の楽しみ。今年はオペラでなく、オペラ的に演出された「グレの歌」です。
オーケストラの乗りのよさ。音のよさ。心地よいぐらいにビンビン響いてきます。それでいて音の質が柔らか。これがサイトウ・キネンかというぐらいに音の質が違う。過去にもこんなに素晴らしかったかと再認識しました。かなりの満足度。感動がおさまらないぐらいの感動。
面白かったのはステージのセッティング。オーケストラがピットに入っていない。むき出しです。最前列の客席のすぐ前からステージ中段までオーケストラが並び、一段高いステージの後段が演じられる空間。オーケストラの音がいいのはそのせいでしょうか。
「グレの歌」は、これまで何度も聴いたお馴染みの曲ですが、生で聴くのはこの時が初めてです。最近、聴いた手持ちのCDはブーレーズの指揮。ブーレーズよりは小澤の方が、このロマンティックな音楽によく合っています。そういえば、最初に「グレの歌」を聴いたのは小澤征爾/ボストン交響楽団だったと思い出しました。確か1980年。もう25年も前…。その時聴いたのはFMで。やっと念願の生演奏で聴くことができました。
「グレの歌」は、一言で言うと豊穣でロマンティック。これがシェーンベルクか、と思うぐらいにロマンティックです。この作品が、セミステージという形で上演されるのも興味深いところです。音楽の進行が視覚化されているので、ドラマ的な展開が実感できます。このセミオペラ的趣向にも感心してしまいました。
シェーンベルクは大好きな作曲家の一人です。ただ、いろいろ聴くかというと、最近もなお聴いているのは「浄められた夜」と「グレの歌」ばかり。無調、十二音も悪くはないのですが、やはりロマンティックな初期の作品がよい。「モーゼとアロン」というオペラもありますが、「グレの歌」は意外に「モーゼとアロン」に近いかもしれません。あまり動きのあるオペラでない。単調な語りの歌しかありません。その点、「グレの歌」とそっくり。
サイトウ・キネン・フェスティバルは最初にオペラ・プログラムから売り切れが通例でした。それも6月頃の発売初日に完売。それが今回の「グレの歌」は売れ残り、当日券が出せたらしいです(ホームページに当日券ありのお知らせあり)。即日完売でなかったのは、おそらく初めてでは? せっかく「まつもと市民芸術館」というオペラハウスで、オペラを聴きたいという聴衆の欲求は高いのではないでしょうか。この日の「グレの歌」を見れば、オペラでなくても素晴らしいと思うわけですが、「グレの歌」自体、それほど一般受けする作品ではないですし、プログラムとしては大胆に過ぎたきらいはないでもありません。そのおかげでチケットが手に入りやすかったと言えます。結果としては、こんな最高にいいのが聴けてよかった!
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