『夕べの鐘』 非常に懐かしい感覚にとらわれました。私が学校で学んだのは『あるじは冷たい土の中に』というタイトルです。『夕べの鐘』というタイトルは知らなかった。この曲が極めて印象深いのは、映画『東京物語』(監督:小津安二郎、1953)のラストシーンに近い場面で延々と流されていたからに他なりません。老父(笠智衆)が娘婿(原節子)に世話をしてくれた礼を言う感動的な場面に続き、学校の場面へと転換した後、延々とこの曲が流れてきます。『小津安二郎 東京物語』(リブロポート、1984)を編纂した時、その挿入歌について教科書センターに原曲を調べに行き、1953年当時の音楽の教科書で「夕べの鐘」の楽譜を発見した時には感動しました。『東京物語』中の『夕べの鐘』をあえて意味づければ、人生とは回帰するもの。輪廻的な回帰という動機づけであったと解釈できます。フォスターの曲がここまで、東洋の死生観と感覚的に合致するものとは、作曲家は思いもしなかったことでしょう。
『小ぎつね』 「♪小ぎつね、コンコン…」という、あまりにもうまくはまりすぎた歌詞。どうやってこういうインスピレーションを得たのか。解説によると明治唱歌に導入された曲が、1947年に「小ぎつね」に改訂されたと言います。とするとこの『小ぎつね』は戦後ですか。考えてみれば、こういう新たな創作ができるのは輸入音楽が原曲の特権とも言えます。
『埴生の宿』 「埴生」とは「粗末な家」の意味ですか。「埴輪」とも違う、意味不明の言葉の響きが印象的な唱歌でした。この曲は私は学校では習わなかった。原題「Home, Sweet Home」の直訳だったのでしょう。
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