8/30、サイトウ・キネン・フェスティバル(SKF)松本2012の一般公演では最終日となる「武満徹メモリアルコンサート」に行ってきました。実に素敵なコンサートでした。その余韻を感じて帰路につきました。
演目は前半が『アントゥル=タン(Entre-temps)』(1986)、『そして、それが風であることを知った』(1992)、後半が『秋庭歌一具』(1973/79)。
『アントゥル=タン』はオーボエと弦楽四重奏の曲。オーボエの響きは雅というだけでなく、武満徹のあの独特な音の感覚に合って、絶妙な味わいを醸し出しています。あの繊細な感覚、樹木の風のそよぎの間隙のような、音の陰影が実にいい。
『そして、それが風であることを知った』は1992年に水戸芸術館で初演されたとのこと。印象的な曲でした。
そしてなんと言ってもこの日のハイライトは『秋庭歌一具』です。この曲の初演は1979年。まだ大学生だった私はその年からクラシックのコンサートを聴きに行くようになり、それ以来、コンサートを聴くことは生きることの証しとなって現在に至っています。その時に国立劇場へ聴きに行こうかと迷って行かなかったことが心残りでした。33年経ってその実演に出会うことができました。そのようなわけで、この曲を聴くことが、しかもそれが松本で聴けるということが私にとっては大事件です。
舞台のしつらえも演奏者の衣装もまさに雅楽。雅楽は中国から伝来した笙や笛などの楽器を使い、同時に演奏されると独特な響きが起こります。脳髄に響き渡るような刺激となって、言葉は変ですが、昇天していきそうな感覚になります。『秋庭歌一具』は、そこまでの響きは抑制され、寡黙な響き、端正な音の進行に特徴の感じられる曲でした。中国直輸入の楽曲は音で埋め尽くされ共鳴しあいますが、武満は音のない空間の中に音が浮かんでくるような、カンディンスキーの抽象画のような感覚の音楽でした。 50分を超える大曲ながら、飽きることなく、得難い時間をたっぷりと堪能しました。素晴らしいコンサートでした。
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