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バイロイト音楽祭1980『神々の黄昏』を見る

カテゴリ: さまざまな音楽を聴く 地域: どこか
(登録日: 2013/06/01 更新日: 2024/09/30)


バイロイト音楽祭これまでの100年の計。次の100年に向けての計。質実的な革新、ホンモノの表現に裏打ちされた『神々の黄昏』の上演でした。

☆バイロイト音楽祭1980『神々の黄昏』
http://www.classica-jp.com/program/detail.php?classica_id=U499

バイロイト音楽祭100年を記念して上演されたパトリス・シェロー演出、ピエール・ブーレーズ指揮による『ニーベルングの指環』(『ラインの黄金』など4部作、以下『指環』、1976〜1980年)から30年以上が経ちます。当時は演出などに対する異論反論が大きく、決して絶賛とは言い難い評価でした。この歴史的上演のうち未見だった『神々の黄昏』をスカパーの放送でやっと初めて見ることができました。

デジタル多チャンネル放送の時代になり、本当に見たいと思う作品を見ることができるようになりました。世間ではごく少数の視聴ニーズしかないと思われる1980年バイロイト音楽祭の『神々の黄昏』がピンポイントで選べる。まさにその恩恵を実感しました。

シェロー/ブーレーズの『指環』から30年以上が経ち、これを超える『指環』の名演が出て来ないというのが実情です。私もいくつかの上演をテレビなどで見る機会がありました。演出が奇をてらったものであったり、凡庸であったり、配役がいま一つだったりして、どれ一つとして満足できる上演はありませんでした。その中では、シェロー/ブーレーズの『指環』は最も満足できるものでした。

ふつう、オペラの上演を見て少なからず思うこと。言葉は悪いですが、「学芸会の上演みたいだ」という印象がいつもつきまといます。オペラであるから歌が優位にあってドラマの演出は二の次になる、というものです。『神々の黄昏』はそうした悪い先入観を払拭するばかりではなく、ドラマが見る側に迫ってくるかのような展開に堪能し、最初から飽きずに見入ってしまいました。これは凄い!。

ブリュンヒルデ役のギネス・ジョーンズがいい。グートルーネ役のジャニーヌ・アルトマイアがいい。オペラ歌手でこれだけ感情表現が豊かで迫力のある人には滅多に出会うことはありません。長丁場の場面が多く、豊かな声量が続くだけでも感心をします。

舞台の美術は極めてシンプルであることに驚きます。ブリュンヒルデがジークフリートと出会う岩山の場面は岩山しかない。日本の能の舞台のように何もないかのようにすら感じます。あれだけ話題になった歴史的名演の舞台にしてはあまりに質素な印象すら受けます。炎の場面などでの照明は効果的に使われています。しかしながら、現代の上演ではこういうのはもっと派手に当たり前に行われます。それに比べると実につつましい。しかし、そうした度合いの差は舞台の表現の質の差に直結しないことを逆に気づかされます。

この上演が印象的なことには、配役の見た目の善し悪しが決定的に利いています。オペラ歌手は往々にして体格がよすぎることがあり、正直なところ、ヒロインがドラム缶のような体格で登場するとげっそりさせられます。歌手は歌がうまければよいというものではない。この点、配役が実にいい。群衆で出演する人々も出色です。見た目で配役を選んだのではないかと思うぐらいです。

この放送を見ながら、手元で関連の情報を検索してチェックしていました。初演の時、演出のシェローは32歳。指揮のブーレーズも初演の時は51歳。ブーレーズが新進気鋭の演出家シェローを推薦したのだと言います。さらにギネス・ジョーンズ40歳、ジャニーヌ・アルトマイア28歳。1980年の上演はそれからさらに4歳加わった時のパフォーマンスです。生涯の中でも絶頂、といってもいい。1960年代のワーグナー歌手に大御所が多かったため、先代の大御所と比較されて力量が劣ると過少評価がされていた感は否めません。

バイロイト音楽祭は革新をしていくところに伝統がある。「メイキング・オブ・リング」という映像制作のドキュメント番組も付随して放送されました。そこでは、バイロイト音楽祭は過去に大きな3度の革新を経たと解説されていました。1度目はワーグナーの意思をくんでごてごてした美術や衣装などをすっきりさせた19世紀末の公演、2度目はヴィーラント・ワーグナーによる新バイロイトの抽象的な様式の舞台演出、3度目がシェロー演出の100周年記念公演。こうやってみると、本当の革新を図るには100年もの年代の経過を要するということになるでしょうか。そうした途方もなく長い、何世代にも渡る歴史の中での上演と捉えてみると、この上演の重さが実に奥深く感じられてきます。
 
おらほねっと/ミッチーのブログから転載
バイロイト音楽祭1980『神々の黄昏』を見る
2013年06月01日(土)
https://sns.orahonet.jp/blog/blog.php?key=13062

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