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ドキュメント(2002年)01

「PopCorn」って美味しいの?

分類目次: ドキュメント
(登録日: 2002/02/10 更新日: 2002/04/02)




 前川道博

 (東北芸術工科大学未来デザイン学系専任講師/PopCornワーキンググループ代表)



【1】ちょっとした知恵と道具で豊かさを生み出そう

 「PopCorn」は、誰もがIT(情報技術)を活用して豊かな生き方と人々の学び合いの交流ができる社会の実現を支援するツールです。研究グループ「PopCornワーキンググループ」では、これからの時代の新しい生き方としての生涯学習、新しいコミュニティのあり方「市民参加型ネット」の創造・運営を提案し支援しています。

 ITやネットワークというと難しいという先入観を持たれるかもしれませんが、ちょっとした知恵と道具、そして皆の協力で、こうした壁は乗り越えることができます。こういう知恵や道具を持ち、仲間作りをしていくことから楽しい第一歩が始まります。

 個人のホームページ作りだけでなく、学校の「総合的な学習の時間」、各地域で取り組まれているボランティア活動、協働学習、デジタルアーカイブの構築、地域ポータルサイトの運営などもこうした輪の中に入ります。個人・家庭・学校・市民グループ・地域社会が一つにつながる可能性が現実味を持ち始めてきました。



【2】PopCornで素材を煎ろう

 Webサイトの制作にはとても手間がかかります。画像などが多いとさらに大変です。最初からしっかり作ろうとすると誰でも挫折します。Multimedia Mapping/生涯学習支援ツール「PopCorn」は、<Webサイト制作=学習プロセス>を支援するツールです。素材を整理する前にWebサイトを真っ先に生成して、生成したサイトを見ながら素材を後から整理するという使い方ができます。学習の深まり、広がりに応じて、学習の成果物でもある自分のWebサイトを際限なく更新し続けることができます。

 ポップコーンの原料(アイデアや素材)を畑(パソコン)で育てるのは大変ですが、収穫された粒々のコーン(素材の一つ一つ)をフライパン(PopCornというツール)で煎るとあっという間においしいポップコーン(Webサイト)が出来てしまいます。「あら、不思議!」となるはずです。

 このPopCornを誰もが利用できるようにするため、第二のツール「PushCorn」を作りました。こうした平易なユーザインタフェースがあると、子どもからお年寄りまで誰もがWebサイトの制作を楽しむことができることは、利用実験でも検証されています。



【3】スキルレスでeポートフォリオが出来る?

 Webサイトは、素材やアイデアの断片など、さまざまな自分自身のリソースを網目状につなぎ合わせて構築されます。言い換えれば、Webサイトはその人の知識や知的財産を束ねたポートフォリオなのです。

 ところが普通のホームページエディタはページレイアウトの機能しか提供してくれません。1つ1つのページ制作に手間暇もかかれば、網目状のリンクは手作業で施さなければなりません。知識を編集するという理想にはほど遠く、手元にある画像やテキストなどの素材を縫い合わせるだけでも大変です。さらにリンクを張り巡らしたものほど、更新の手間もかかり、維持管理やサイトの拡張などはさらに気の重い作業になってしまいます。楽しく学習するどころの話ではありません。

 個人が日曜大工で犬小屋は作れても、自分の住む家や大規模なビルまでは作ることができません。アーキテクチャや適用技術が違うからです。この限界をどう突き破れるかが、これからの時代のホームページエディタには求められています。自分の学習成果を記録し蓄積していくとエンドレスに大規模なWebサイトに成長します。これを支え続けるにはそれに適した情報アーキテクチャの適用が不可欠です。際限なく蓄積され続ける学習成果のWebサイト、これをここでは「eポートフォリオ」と呼ぶことにしましょう。マルチインデクスという隠し味もあります。残念ながら普通のホームページエディタではとてもそこまでの構築は支援してくれません。



【4】ビデオをもっと活用しよう

 学習方法の工夫はいろいろ考えられますが、ここではその知恵の一つ、ビデオ活用の例をご紹介しましょう。

 子供たちは自然に触れたり、社会と関わる機会が少なくなっていると言われています。体験型学習は、さまざまなことを自ら発見し知る機会となるものですが、それだけでは「見聞」に留まってしまいます。見聞したものを調べ、そこから何かをさらに発見したり理解していくプロセスが学習では特に大切です。大人の場合でも話は全く同じです。

 ところで、写真を撮る行為は発見に役立つでしょうか。実はこれが非常に曲者です。写真はあらかじめ何を撮るかを選ばなければなりません。撮れる枚数にも限りがあります。デジカメの場合も同じです。どうしても印象的なもの、目立つものへと撮る方向が向かいます。一方、ビデオカメラでは撮りたいだけ撮ることができます。選択の自由度が高い分だけ、予期せぬものが捉えられたり、一つのものを多角的に記録することができたり、現地でのメモ書き替わりにビデオで記録したりと贅沢なほどの情報収集ができます。これを後から見直すと実に発見が多いのです。

 パソコンを使ってビデオから静止画を取り出したり、断片的な動画クリップを取り出したりすることがとても手軽にできるようになりました。データ(ビデオ映像)をWeb空間に並べて閲覧し、それにタイトルを付けたり、「これ何だろう?」と何かを発見したりしながら、あるいは現地ではよく観察しきれなかったところを観察し直すことで、見聞したものと自分の理解をマッピングさせることができます。撮ったものを一つ一つ手に取るようにして発見の手応えを感じることができます。

 さらに面白い使い方として、ビデオ映像を例えば2秒間隔で静止画抽出し、それをWebサイト上に全て閲覧可能な状態で載せることができます。PopCornを使うと、こんなことまで出来てしまいます。後からの興味誘発という効果も期待できます。

 PopCornの次のバージョンでは、ビデオを自分のパソコンに入れて、自動的にWebサイトが組み上がるような機能強化を予定しています。ここまで来れば、鬼に金棒、自宅にビデオサーバが出来て、さらに楽しみの幅が広がることでしょう。



【5】ネットで、地域で、世代を超え一緒にやろう

 ネットワークを介した協働学習の方が、人と人が直接対して教え合い学び合うより、より深い理解に至ることができる面があることも、常識を覆す逆説的な見方です。学習は発見から始まり、興味の芽生えを経てより深い理解へという際限のないプロセスです。このためには、学ぶ対象が自分のすぐ前にあり、自分自身と対話できる環境であることが望まれます。また、発見したこと、知り得たこと、思いついたアイデアなどはその場その場で書き留めたり、データがいつでも更新できるように、自分が直接パソコンに向かった状態になっていなければなりません。この状態は、人対人のパソコンのない状態では難しいのです。

 見てくれる相手、一緒に学習できる仲間がいる方が、学習はもっとインタラクティブで刺激的になります。誰でも使える「PushCorn」で学習のネットワークが広がります。

 地域的な広がりの中で、パソコンが全く使えない人もこの輪に加わることができます。例えば、子供たちが地域のお年寄りに話を聞いたり、ITスキルのある若者が技術的な支援をしたりしながら、地域の人どうしが交流していくと、そこに活きた世代間のつながりができていきます。コミュニケーションのなかった人たちのつながりが生まれます。このような可能性も是非開いていきたいものです。



【6】皆さんの成果物がゾクゾクと…

 PopCornの仲間も増え、私も多くの皆さんからいろいろなことを学び、刺激を受けています。「これいいなあ」という取り組みがいくつもあります。ここではそのいくつかをご紹介しましょう。

●マッピング岐阜

 岐阜県の社会教育の取り組みで制作されたサイトの一つです。河合村、谷汲村、高山市の皆さんが取材をし、一つにまとめ上げました。岐阜県では、その後も「岐阜県バーチャルミュージアム」「雪国のくらし」などにPopCornを適用しています。

●かすみがうら*ネット

 協働学習のモデルケースとして始めたネットコミュニティです。地域でサーバを共用できると、やれることの可能性が大きく広がります。学校のビオトープの紹介、水質調査の教材作り、里山の協働学習など、学習サイトが増えてきました。

●エコウォークin手賀

 千葉県沼南町が実施したイベント「エコウォーク」を市民グループTEEEPがネット上で継続的な協働学習として支援しています。参加した学校の子供たちが撮った写真にタイトルや説明を付けてサイトが日々更新されています。

●横浜エスペラント会ホームページ

 ホームページ管理人でもある南波文晴さんはPopCornの開発にも参加しています。日本語、エスペラント語、英語のページがあります。南波さんがPopCornを多国語に対応してくれました。PopCornの可能性が国を超えて広がりそうです。

●きらくにバードウォッチング

 私の野鳥観察ノートです。現地では種類の判定が難しく、撮ったビデオから画像を抽出し図鑑と照合して野鳥情報の整理に役立てています。常に観察の証拠写真付きです。ビデオ+PopCornの組み合わせだからこそできる観察方法です。

●旅れぽ

 私のゼミ学生の尾形美香さんが始めた企画です。旅を楽しみ、旅の思い出作りで二度楽しみ、ネットに公開して自分が情報発信者になることで三度楽しみ、こうやって「旅れぽ」の輪が広がると、観光情報が豊かになるという循環を生み出します。観光情報=観光地側からの一方的な情報発信という概念が覆りました。旅は学習の楽しさを生み出すチャンスです。

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