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IT活用生涯学習事業プランニング〜PushCornワークショップ『楽しく協働学習』〜

カテゴリ: 研究発表 地域: どこか
(登録日: 2004/04/09 更新日: 2017/07/18)


東北芸術工科大学・メディア環境研究室
前川道博




月刊『視聴覚教育』2003年7月号掲載(財団法人日本視聴覚教育協会)の記事を同編集部のご好意により、こちらに転載させていただきました。

学習を楽しむためにITを使う

 IT(情報技術)と聞くだけで尻込みしてしまう人が多い。ワープロもよく使いこなせないのにホームページを作ることなどとても…。先入観とは恐ろしいもので、一度そう思いこんでしまうと発想の転換ができなくなってしまう。ITはちょっと発想を変えると、豊かな生き方を創造する道具に変わる。ITを使うから、学習の壁が取り除かれて面白くなる。2002年度、山形県の東北芸術工科大学で開催した公開講座「PushCornワークショップ『楽しく協働学習』」は、この逆転の発想から構想したIT活用型生涯学習講座である。
 デジカメやDVカメラを使って、自然や地域社会のさまざまなものを撮影したり、「PushCorn」(プッシュコーン)というツールを使って「eポートフォリオ」(学習ホームページ)を制作することを試みた。講座は4回に分け、各回2日間の日程で開催した。第1回「環境学習編」、第2回「自然観察編」、第3回「地域学習編」、第4回「旅れぽ編」である。
 1日目は午前にレクチャー、午後にフィールドワーク、2日目は「eポートフォリオ」にチャレンジした。PushCornを使って、画像を整理しながらそれをホームページにまとめていく。たった2日間で出来ることは限られているが、ポートフォリオを自宅からも更新できれば、一生涯続くものになるかもしれないし、そうなって欲しい。そんな思いを込めた学習講座である。

紙媒体は蓄積も共有も苦手

 趣味の活動、社会的な活動をしている方は多いが、それとITが結びついていないケースが非常に多い。ITがそうした活動と結びつかないことによって起こるデメリットを挙げてみよう。
 一つには情報の蓄積や共有が難しいことが挙げられる。ミニコミ紙など従来どおりの紙媒体は伝播効果が有限である。不特定多数の人にも情報を伝えにくい。さらに、長い間にはその紙はどこかへ行ってなくなってしまう。情報の蓄積がしにくいのである。
 そこで、情報をWebに載せてインターネット上の情報空間に蓄積し共有することが重要な意味を持つ。インターネットを使う人は増えつつある。お互いに情報をやりとりする上でも楽である。ホームページはサーバというマシンにデータを載せる。紙と違い、物理的にかさばることがない。ハードディスクも安価で大容量になり、無尽蔵に皆でデータをいくら放り込んでも限界が来ることがない。長い間には、学習者それぞれの膨大な「ポートフォリオ」ができていく。まさに「発想を変えよう」である。

誰でも使えるPushCorn

 ツールは、スキルレスで初心者でもいきなり使うことができれば、IT活用を学ぶことを目的化することなく、本来の学習に自分の興味を振り向けることができる。ツールを利用することが学習支援になる。
 PushCornの前身のツールPopCorn(ポップコーン)は、まず筆者自身が自分のポートフォリオを作ってみようという動機で開発した。自分が面白いと思って使えるツールでなければ、おそらく他の人が使っても面白いと感じるものにはならないだろう。「自分のために役立つものは人のためにも役立つ」。これが当初に立てた仮説である。このツールをインターネットに公開したところ、このようなツールが欲しかった、という人が何人も現れた。「PushCorn」は、それと同じことを誰もができるように支援することを目指して開発した。いつでもどこでもパソコンがインターネットにつながっていさえすれば使うことができる。実際に初めての方に試してもらったところ、本当に使えることが確かめられた。
 PushCornのメリットは、ユーザIDとパスワードがあれば、誰でも使うことができる点である。ソフトをパソコンにインストールする必要がない点も初心者には導入がしやすい。公開講座で学んだことは、家に帰ってから、また講座終了後も自宅でいつでも気楽に楽しみながら継続することができる。

プランニングは情報コミュニティ作りがポイント

 「PushCornワークショップ『楽しく協働学習』」は、施設の種類や場所を問わず、どこでも実行可能な生涯学習講座のモデルとなるものであるが、プランニングに際しては地域に根ざした情報コミュニティ作りを目指していくことが一番のポイントとなろう。ITが得意な人がほどよく混在することもポイントの一つである。ワークショップに参加した受講者はやがては指導したりアドバイスしたりする側に回ることができる。こうやって、コミュニティづくり、サポーター作りを進めていくことができる。
 公開講座は大学が主催したが、生涯に渡る学習の支援には上のような問題の解決が不可欠と考え、地域の情報コミュニティ「やまがたネット」と連携する形をとった。学習者のホームページをどこに持つか、という点は重要である。eポートフォリオはデータの量が肥大化し続ける点、長く続けて意味がある点に特徴がある。受講者が気軽に参加できる情報コミュニティがあれば、お互いに刺激しあえる関係となり、これを核にして、学習の輪づくり、eポートフォリオ作りの仲間を増やしていくことができる。地域の人々からはいろいろなアイデアや力がわき出てくるものである。それぞれのコミュニティにリーダーがいれば、そうした地域のポテンシャルを引き出しやすいであろう。こうした人材も地域には必ずいるものである。また、皆が共有のサーバを持つことができると、自分たちのポートフォリオを散逸させることなく末長く育てていくことがしやすくなる。
 公開講座の開催と並行して、山形では、やまがたネットの他、東根ねっとの活動も始まった。東根では教育委員会や学校とも連携した地域の活動が自律的に展開し始めている。公開講座のワークショップを体験した人たちが、やまがたネットのワークショップに引き続いて参加したりしながら、ワークショップは大学から地域へとその場を広げつつある。

ホームページのアドレス

「PushCornワークショップ『楽しく協働学習』」
 http://www2.yamagata-net.jp/ws/
問い合わせ:前川道博 maekawa@mmdb.net

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